ヤーン・ユヘルスズキ 「そこそこ悪名高き存在」
Led Zeppelin(Zep)の《Physical Graffiti》(Swan Song 1975)は《White Album》(Apple 1968)のように最初からアナログ2枚組アルバムでリリースする考えはなかった。1974年1月から2月、英ハンプシャー東部のヘッドリィ・グランジで録音された新曲8曲〈Custard Pie〉〈In My Time Of Dying〉〈Trampled Under Foot〉〈Kashmir〉〈In The Light〉〈Ten Years Gone〉〈The Wanton Song〉〈Sick Again〉のトータル演奏時間は54分近くもあって、アナログ盤1枚には収まり切れなかった。5thアルバム《Houses Of The Holy》(Atlantic 1973)からタイトル・トラックを外さなければならなかったのと同じ轍(過ち?)は2度と踏みたくないと思ったのかどうか、3rdアルバム以降にレコーディングしていた未発表曲7曲を追加収録した全15曲の2枚組アルバムとなった。アナログ2枚に新録4曲を割り振って、旧録7曲を混在させた構成はバランスも良く、不思議と整合性が取れている。アルバム・リリースが翌年に遅れたのは凝りまくったアートワークのためだという。
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白い翼の生えた男性(アポロ神)が空中で仰け反る「スワン・ソング」のレーベルが盤面にプリントされたリマスターCD。音圧は抑えられていて、ヴォリュームを上げても耳障りにならない。Jimmy Pageの硬質なギター・リフとJohn Paul JonesのクラヴィネットにRobert PlantのヴォーカルとJohn Bonhamのドラムスが加わる〈Custard Pie〉。Pageの豪快なスライド・ギターが炸裂する〈The Rover〉。ディランもカヴァしたブラインド・ウィリー・ジョンソン("Blind" Willie Johnson)のゴスペルをブルーズに換骨奪胎した長尺曲(11分8秒)〈In My Time Of Dying〉。泥臭いスライド・ギターのブルーズを聴いた後でアナログ盤を引っくり返すのが億劫だったが、CDではスムースに〈Houses Of The Holy〉へ続く。〈Trampled Under Foot〉はクラヴィネットを大胆に導入したディスコ〜ファンク・ナンバーで、恐竜や巨人が人間たちを容赦なく踏み潰して行くような破壊的な爽快感さえある。ギター・リフ(3拍子)とドラミング(4拍子)による〈Kashmir〉は後半のインド風のストリングスと相俟って、非西欧世界の雄大なスケールを現前させる。
Jonesの弾くシンセが中近東風メロディを奏でる〈In The Light〉。Pageのアクースティック・ギター(オープン・チューニング)によるインスト曲〈Bron-Yr-Aur〉。Neil Youngを想わせるウェスト・コースト・サウンド風の〈Down By The Seaside〉‥‥と後半(Disc 2)はZepの本流から逸脱した楽曲が並ぶ。ハードなサウンドの中にもノスタルジックな響きが混じる〈Ten Years Gone〉。Zep本来のギクシャクしたシンコペーションが執拗に繰り返される〈The Wanton Song〉。イアン・スチュアート(Ian Stewart)のブギウギ・ピアノが軽快に弾ける〈Boogie With Stu〉、Pageのアコギ、Jonesのマンドリン、Plantのブルーズ・ハープ、Bonhamのドラムスという編成のカントリー・ブルーズ〈Black Country Woman〉‥‥。アルバム・タイトルの「Physical Graffiti」には「アルバム制作に要する大変な肉体的なエネルギー」という意味が込められているという。2枚組となった制作過程も含めて、肉体のように生々しく、落書きのように雑多なアルバムなのかもしれない。
過去にレコーディングした未発表曲を追加収録したためか、2枚組のヴォリュームに反して「コンパニオン・オーディオ」(Disc 3)は7曲と少ない。〈Brandy & Coke〉はPageのギターがオーヴァ・ダビングされていない〈Trampled Under Foot〉の初期ラフ・ミックス。〈Sick Again〉は〈The Rover〉と同じギター・リフから始まるインスト・ナンバー。〈In My Time Of Dying〉〈Houses Of The Holy〉もギターがオーヴァ・ダブされる前のラフ・ミックス。〈Everybody Makes It Through〉はJonesの弾くクラヴィネットの伴奏でPlantが歌う〈In The Light〉の初期ヴァージョンで、完成形とは印象が大きく異なる。〈Boogie With Stu〉はアクースティック・ギターの入ったミックス。〈Driving Through Kashmir〉は〈Kashmir〉との差異が余り認められない。インナー・スリーヴ(内袋)は1枚目(Disc 1)をネガ反転しているので、表・裏が昼なのか夜なのか判別し難い。
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NYダウンタウンのイースト・ヴィレッジ8丁目、セント・マークス・プレイス96/98番地に建つアパートメントの外観の写真を使用したアルバム・カヴァは窓枠部分が刳り抜かれていて、インナー・スリーヴ(2面)とレコード内袋(4面)に印刷された「室内」が覗ける趣向になっている(内袋を入れ替えることで「室内」を変えられる)。表スリーヴは4階建てのアパートの白いカーテンの引かれた20の窓枠に「P・H・Y・S・I・C・A・L・G・R・A・F・F・I・T・I」という16の赤い文字が割り振られ、裏には21の窓枠に白いカーテンが降りている。スリーヴを外せば、内袋にコラージュされたメンバー4人や無声映画、ラファエル前派、ネコちゃんなどの写真や絵をカーテンの開いた窓から覗ける。同じアパートメントの表と裏ではなく、裏面は表の外観(昼)を左右反転した夜ヴァージョンである。開いた窓が1つ多いのは4階右から2つ目の金髪女性のストリップ・ショット5枚(2枚目の内袋裏)を覗き見るため。「デラックス・エディション」の裏面は表カヴァをネガ反転したデザインに統一されているので、残念ながらヌード女性を「裏窓」からは見れないのだ。
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- 国内盤より千円近く安い輸入盤CD(Swan Song 2015)がお買い得にゃん^^
- 「デラックス・エディション」のアルバム・カヴァは反転した裏面の画像です
led zeppelin 1 / 2 / 3 / sknynx / 583
Physical Graffiti(DELUXE EDITION 3CD)
- Artist: Led Zeppelin
- Label: Atlantic
- Date: 2015/02/24
- Media: Audio CD(3CD)
- Songs: Custard Pie / The Rover / In My Time Of Dying / Houses Of The Holy / Trampled Under Foot / Kashmir / In The Light / Bron-Yr-Aur / Down By The Seaside / Ten Years Gone / Night Flight / The Wanton Song / Boogie With Stu / Black Country Woman / Sick Again
- 特集:レッド・ツェッペリン『フィジカル・グラフィティ』
- 出版社:ミュージックマガジン
- 発売日:2015/02/14
- メディア:雑誌
- 目次:『フィジカル・グラフィティ』オリジナル盤の“深い森"を探検! / トータリティの高さと多面性を両立させたあふれ出るまでの創作力 / 70年代初頭の録音すら成熟して聞こえる三つの理由 /「カシミール」とアナザー・ワールド / 全曲ガイド /『フィジカル・グラフィティ~スーパー・デラックス・エディション』解説 /「カシミール」にのぞき見た“時...
- 著者:バーニー・ホスキンス(Barney Hopkyns)/ 五十嵐 哲(訳)
- 出版社:シンコーミュージック
- 発売日:2013/03/30
- メディア:単行本
- 目次:イン・スルー・ジ・アウト・ドア(出口用の扉から入る)"世界最大の正体不明バンド" / 登場人物紹介 / 心揺さぶられて / 眩い世界へ / イライラが募る時期 / 消耗して / 謝辞 / 訳者あとがき / 著者インタヴュー&出典 / 索引