「帰って来た兎男のクリスマス」
《Gloria》(Songs For Christmas Vol. 6)には全8曲のXmasソングが入っているが、オープニングの〈きよしこの夜〉(Silent Night)からして、ミュージカル・ソーが不気味な旋律を奏でる怪しげな雰囲気に包まれる。子供たちへのXmasプレゼントが詰まった白い袋を背負った善良そうなサンタクロースではなく、まるで幽霊やバケモノやゾンビたちが現われるB級ホラー映画の不吉な前兆のように。酒場で踊るダンスのように陽気で騒がしいカントリー&ウェスタン風の〈Lumberjack Christmas〉。ヴァイオリンやミュージカル・ソーの音色が郷愁を誘う3拍子の〈Coventry Carol〉。バンジョーやヴィブラフォンが軽快に鳴り響く5拍子の〈The Midnight Clear〉。インスト曲の〈Go Nightly Cares〉。暗鬱なバラード・ソングの〈Barcarola (You Must Be A Christmas Tree)〉‥‥オリジナルの4曲はAaron & Bryce Dessner兄弟(The National)との共作、Richard Parry(Arcade Fire)も参加している。ラストの〈Auld Lang Syne〉は〈螢の光〉の原曲である。
《I Am Santa's Helper》(Vol. 7)は全23曲、約43分というフル・アルバム並みのヴォリュームがある。Sufjan Stevensのオリジナル・ソングが10曲も収録されていることからも、カヴァ曲中心のXmasアルバムからは突出している。8曲のインスト・ナンバーを含めて1〜2分の短い曲が続くが、5拍子のファンク・ロック〈Christmas Woman〉、Weenみたいな変態ロックの〈Happy Family Christmas〉、ノイジー・ギターが騒がしい〈Ding-A-Ling-A-Ring-A-Ling〉、アイスクリームとYo La Tengoが好きなスノーマンの歌〈Mr. Frosty Man〉(ゾンビ集団に襲われた家族をスノーマンが救けるスプラッタ・ホラー・クレイ・アニメPVも強烈!)などのオリジナル曲はロック色が濃く、インストにはエレクトロニカの趣きもある。〈Ah Holy Jesus〉はリード・オルガンやアカペラなど3ヴァージョン、Xmas定番ソングの〈Jingle Bells〉や〈We Wish You A Merry Christmas〉もロックっぽいアレンジで入っている。
《Christmas Infinity Voyage》(Vol. 8)は一転してエレクトロニック色が濃い。全9曲なのに演奏時間が46分以上もあるのは2つの長尺曲が入っているからで、エレクトロ・ポップに大胆アレンジされたノエル・レグニー&グロリア・シャイン(Noel Regney & Gloria Shayne)のXmasソング〈Do You Hear What I Hear?〉ではロボ声(オートチューン)も聴けるし、15分を超えるオリジナル曲〈The Child With The Star On His Head〉の後半はギター・インプロヴィゼーションや混沌としたエレクトロ・ドローンと化して行く。インスト・テクノの〈It Came Upon The Midnight Clear〉やヒップホップ化したプリンス殿下の〈Alphabet St.〉まで登場するのだ。Xmasの定番ソング〈Joy To The World〉の後半もエレクトロ・ポップ化!‥‥コンピュータ・ゲームっぽい効果音まで聴こえて来る。サウンド面では《The Age Of Adz》(2010)と重なる部分も少なくない。Xmasパーティで無邪気に踊りたいのなら迷うことなく、このアルバムを選ぶべきでしょう。
《Let It Snow》(Vol. 9)は全9曲(21分)、Sufjan Stevensのオリジナルも1曲と、大判振る舞いの「Vol. 7」や「Vol. 8」に較べると少々もの足りないけれど、これがEP盤の本来あるべき姿なのかもしれない。〈サンタが街にやってくる〉(Santa Claus Is Coming To Town)、〈Sleigh Ride〉〈Ave Maria〉など、Xmasの定番ソングもカヴァされているし、ミニ・アルバムとして遜色ない。唯一のオリジナル曲〈X-mas Spirit Catcher〉は彼のソロ・アルバムに入っていても違和感のない出来で、いつもの心躍るスフィアン・ワールドを愉しめる。オリジナル・ソングの少なさを埋め合わせるかのようにレコーディング・メンバー、Cat Martino(彼女は〈Ave Maria〉も歌っている)とSebastian Krueger(ドイツ人画家)の書いたオリジナル曲が2曲入っている。2009年のSufjan Stevensはニュー・アルバムのレコーディングで忙しかったのだろうか。
《Christmas Unicorn》(Vol. 10)は全9曲中、Sufjan Stevensのオリジナル・ソングは2曲のみ。アナログ・シンセがブヒブヒと唸るカヴァ曲〈Have Yourself A Merry Little Christmas〉。「Vol. 8」にも収録されていた〈It Came Upon The Midnight Clear〉の再演。Vesper Stamper(女性イラストレータ)が参加した〈Up On The Housetop〉はヒップホップ〜ファンクにアレンジされている。しかし、このアルバムというか5枚組ボックス・セット最大のサプライズは12分を超えるタイトル・ナンバー〈Christmas Unicorn〉の後半で突然乱入して来る〈Love Will Tear Us Apart〉ではないかしら。Xmasソングの中にJoy Divisionの代表曲、それもIan Curtisの自殺と密接な関係にある曲が引用(サンプリング)されているなんて!‥‥リスナーの多くは意表を衝く最後のドンデン返しに大笑いしたんじゃないか。もちろん、悲しすぎて歌えないというロック・ファンも少なからずいるかもしれないけれど。
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- スフィアン君は卯年生まれの蟹座(1975年7月1日生まれ)です^^
- 《The Age Of Adz》は〈手斧の時代(2 0 1 0)〉から転載(一部改稿)しました
- またまた『羊男のクリスマス』(講談社 1985)の安直なパロディでゴメンなさい
xmas of bunny-man 1 / 2 / sknynx / 424
- Artist: Sufjan Stevens
- Label: Asthmatic Kitty
- Date: 2012/11/13
- Media: Audio CD(5CDS)
- Songs: Silent Night / Lumberjack Christmas/No One Can Save You From Christmases Past / Coventry Carol / The Midnight Clear / Carol Of St. Benjamin The Bearded One/Go Nightly Cares / Barcarola (You Must Be A Christmas Tree) / Auld Lang Syne // Christ The Lord is Born / ...
- Artist: Sufjan Stevens
- Label: Asthmatic Kitty
- Date: 2010/10/12
- Media: Audio CD
- Songs: Futile Devices / Too Much / Age Of Adz / I Walked / Now That I'm Older / Get Real Get Right / Bad Communication / Vesuvius / All for Myself / I Want To Be Well / Impossible Soul
- Artist: Sufjan Stevens
- Label: Asthmatic Kitty
- Date: 2010/12/27
- Media: Audio CD
- Songs: All Delighted People (Original Version) / Enchanting Ghost / Heirloom / From The Mouth Of Gabriel / The Owl And The Tanager / All Delighted People (Classic Rock Version) / Arnika / Djohariah
- Artist: Sufjan Stevens
- Label: Asthmatic Kitty
- Date: 2009/10/20
- Media: Audio CD(CD+DVD)
- Songs: Prelude On the Esplanade / Introductory Fanfare For The Hooper Heroes / Movement I: In The Countenance Of Kings / Movement II: Sleeping Invader / InterludeI: Dream Sequence In Subi Circumnavigation / Movement III: Linear Tableau With Intersecting ...