『Boa Noite Pra Falar Com O Mar』はその続編に当たるだろう。セステート(Sexteto)とは謳われているものの、曲ごとに編成は変わる。ドラマーはロウレイロからフェリーペ・コンティネンティーノにチェンジ。半数の曲ではヴォーカル・メロディーが聴けるので、ハードなインストゥルメンタル作品という印象はないのだが、音楽的には複雑怪奇な色を増し、何度聴いても違う場所に誘い込まれる美しき迷宮のよう。ジョアナのクラリネットの柔らかさとベルナンド・ハモスの硬質なギターの対称も効果的だ。自作曲以外にはエルメート・パスコアール、サンパウロのフルート奏者、レア・フレイリのカヴァーも。カルロス・アギーレに捧げられた曲には、ジョアナがアギーレから受けた影響が素直に覗く。南米音楽とジャズおよびクラシックの接点で彼女が獲得している視野の広さ、次々に開け放っていく新しい扉の鮮烈さ。年の始めにして、2017年のベストの一枚を確定させる大傑作だ。 高橋 健太郎 「月刊ラティーナ 2017年3月号」
《Boa Noite Pra Falar Com O Mar》(2016)の前にレコーディングしていたというソロ名義のアルバム。Joana Queirozのヴォーカルとクラリネット、ピアノ、鉄琴、打楽器、手拍子‥‥とフィールド・レコーディングした野鳥や昆虫の鳴き声、草叢を踏み歩く人(彼女自身?)の足音、子供たちの話し声、川の流れや雨音などの自然音が優しく融け合う。森の奥で密かに開かれた密やかなプライヴェート・コンサートに招かれたような錯覚に陥る。招待客も飛び入りで演奏に参加したくなるような親密さに溢れている。エルメート門下生としての実験性もナチュラルに発揮されている。クラフト色の見開き紙ジャケに1枚の木の葉を白と銀色で転写したハンドメイド・カヴァ(Pilar Rocha)なので、木の葉の形状が1枚1枚異なる。予め実物のアルバムを見ることが出来ないネット通販ではなく、リアル店舗で手作りアルバムを見比べて購入した方が愉しい。
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数年前、某タワレコで購入した《Uma Maneira De Dizer》には「税込 ¥3035」の値段が付いていた。三千円以上のアルバムは買わないことにしているのだが、観念してレジに持って行くと、旧譜なので半額になりますと言われた。レジ係の女の子は申し訳なさそうに「済みません」とマニュアル通りに応対する。半額シールを貼ってないのは店側の落度かもしれないけれど、安く買えた顧客に謝ることはないでしょう。ところが、知る人ぞ知る存在だったJoana Queirozの人気が急上昇!‥‥年末(2016)にリリースされた《Boa Noite Pra Falar Com O Mar》は早々に売れ切れ、《Diario De Vento》も即日完売という異常事態は実に不可解である。《Uma Maneira De Dizer》も再入荷したというから、購入者の多くは新参リスナーだと思われる。どのような音楽を聴いている人が購入しているのか?‥‥旧来のジャズ愛好家なのか、それとも新しい音楽に敏感な若年層なのか。注文がネット通販に殺到しているらしく、購入者の顔も見え難い。ジョアナ・ケイロスの人気沸騰は奇々怪々!?
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突然降って湧いた異常人気に戸惑う「ジョアナ・ケイロス(Joana Queiroz)の怪」
《Boa Noite Pra Falar Com O Mar》《Diario De Vento》は再入荷で買えました