新リオ・ミュージック

◎ Tres（Big Papa 2016）Thiago Nassif

「新世代ブラジル・ソングライターの先駆者（leading light）」と称されるチアゴ・ナシーフ（Thiago Nassif）はサンパウロ出身のSSWで、Arto Linsayの《Cuidado Madame》（2017）を共同プロデュースしている。3rdアルバムはThiago Nassif（ギター、キーボード、プログラミング）、Alberto Continentito（ベース）、Domenico Lancelotti（MPC、ドラムス）、Marcelo Callado（ドラムス）、Laura Wrona（バッキング・ヴォーカル）、Arto Linsay（プロデュース、ギター）という編成で、緊迫するアヴァギャンと長閑なトロピカリアが奇妙に共存している。ノイズ・ギターが炸裂する〈Desordem〉、６拍子ロックの〈Pensamentos〉、スロー・ファンクの〈Shiu (Cocar Onde Coca) 〉、アフロ・ブラジルっぽい〈O Asco〉、インスト・ヘヴィ・ロックの〈Bulgado〉、変則リズムの〈Quiçca (Leito Eito)〉‥‥全10曲・40分。デジパック仕様、９つ折り歌詞・ポスター付き。UK盤《Tres》（Foom 2018）とは曲順が異なるブラジル盤。

◎ Desastre Solar（Slap 2018）Laura Lavieri

サンパウロ出身の女性歌手ラウラ・ラヴィエリ（Laura Lavieri）のソロ・アルバムはオレンジ色の立体空間に太陽を模した黄色い卵黄や白い百合、２匹の蛇、赤い眼、女性（ラウラ）をコラージュしたアルバム・カヴァのようにシュールでサイケデリック。SFチックなインスト〈Desastre Solar〉、ファズ・ギターがうねるNovos Baianosの〈Radical〉、スロー・ファンクの〈Respeito〉、Grupo Revelacaoのヒット曲〈Deixa Acontecer〉、Marcos Valleの〈Tira A Mao〉‥‥ラストにはジリオラ・チンクエッティ（Gigliola Cinquetti）の〈太陽のとびら〉（Estrada do Sol）まで飛び出す愉しさ。懐かしくて浮き浮きするレトロフューチャー世界を生きる少女のように溌溂とした、小悪魔のように妖艶なLaura Lavieriの魅力全開。Alberto Continentito（ベース）やJoana Queiroz（サックス、クラリネット）なども参加している。全11曲・38分。見開き紙ジャケ仕様、４つ折り歌詞カード付き。

◎ Nao Ha Abismo Em Que O Brasil Caiba（Deck 2019）Jorge Mautner

ジョルジ・マウチネル（Jorge Mautner）はCaetano VelosoやGilberto Gilと共に60年代のトロピカリア・ムーヴメントを起こしたSSW、ヴァイオリン奏者。Caetanoとのデュオ・アルバム《Eu Nao Peco Desculpa》（Universal 2002）もあるが、13年振りの新作はリオの新世代バンドTonoとのコラボだった。宛ら祖父と孫娘たちの共演といった風情である。Jorge Mautner（ヴォーカル、ギター、ヴァイオリン）に、Ana Claudia Lomelio（ヴォーカル）、Bem Gil（ギター）、Bruno Di Lullo（ベース）、Rafael Rocha（ドラムス）。Mautnerのギター弾き語りから始まる〈Ruth Rainha Cigana〉、ノイジーなギターやシンセが舞う〈Oy Vey, Oy Vey〉、メンバーと一緒に歌う〈Segredo〉、Anaとデュエットした〈Marielle Franco〉（マリエル・フランコは2018年に暗殺されたリオの政治家・人権活動家）、Mautnerがヴァイオリンを奏でる〈Veneno〉、Anaの歌う〈O Passado〉はTonoの新曲という趣き。全14曲・44分。デジパック仕様、歌詞ブックレット（12頁）付き。

◎ Grandeza（Risco 2019）Sessa

サンパウロのインディ・ロック・バンドGarotas Suecas（スウェーデン娘たち）に在籍していたSessa（Sérgio Sayeg）のソロ・デビュー・アルバム。太陽を模したような円形のポートレイトからギター、花、獅子、ヘビなどが放射されたアルバム・カヴァのように、トロピカリアの柔らかい陽光が降り注ぐ。白昼夢のようなサイケデリア小宇宙。女声コーラスとパーカッションの〈Tesao Central〉、Sessaのヴォーカルとギターが加わる〈Flor do Real〉、Paloma Mecozzi（ヴォーカル）とEduardo Camargo（パーカッション）がゲスト参加した〈Dez Total (Filhos de Gandhy)〉‥‥新ミナス派のGustavitoにも相通じる脱力系の生ギター弾き語りタイプのSSWだと思われるが、フリー・ジャズ・バンドのムジカ・ヂ・サルヴァジェン（Musica de Selvagem）と共演した〈Tanto〉などの意外性もある。全11曲・30分。デジパック仕様、９つ折り歌詞ポスター付き。

◎ Travesseiro Feliz（Far Out 2020）Ricardo Richaid

ヒカルド・ヒシャイヂ（Ricardo Richaid）は女優・歌手オーロラ・ミランダ（カルメン・ミランダの妹）の孫である。アニメ映画「三人の騎士」（The Three Caballeros 1944）で、ドナルド・ダックと最初にキスしたディズニー・スターの祖母と17歳まで一緒に暮らしていたという。父親の吹くサックスの半音階スケールやボサノヴァのメロディ、母親の弾くクラシック・ピアノ、兄弟の叩くパンク・ロックのドラムスに興味を持って聴くという折衷的な音楽教育によって、十代でハードロック・バンドのベーシストとなった。リオのスタジオでエンジニアやプロデューサとしてのキャリアを積み、デビュー・アルバムを制作。騒がしいポリリズムから穏やかな曲調に豹変する〈Maracas Enterprise / Frio da manha〉。〈VIP Xuxa〉にはAna Frango Eletrico（ヴォーカル）、〈So na Darkzera〉にはMarco Suzano（パーカッション）がゲスト参加。〈Formigas〉ではNina Richaid（7歳の娘）とデュエットする。サイケ、ジャズ、ロック、フォークを融合した「不思議の国のヒカルド」。

◎ Casas（Independente 2018）Rubel

フーベル（Rubel Brisolla）はブラジル・リオ（ボルタ・レドンダ）生まれの男性SSW。大学で映画を学び、デビュー・アルバム《Pearl》（2013）に収録されている〈Quando Bate Aquela Saudade〉のPVを自ら監督している。2ndアルバムは優雅なストリングスとホーンセクションの〈Intoro〉で幕を開ける。ネオアコ系にも相通じるギター弾き語りタイプで、穏やかな午後の憩いのような柔らかいヴォーカルとサウンドは古いフィルム映像を見るような郷愁に満ち溢れている。あのルクセンブルグ王（The King Of Luxembourg）を想わせるノスタルジックな〈Colegio〉〈Cachorro〉、バチーダ奏法のサンバ〈Casquinha〉、弾き語りワルツ〈Explodir〉、ラッパーのEmicida、Rincon Sapienciaと共演した〈Mantra〉と〈Chiste〉も違和感なく聴ける‥‥イントロと間奏曲３曲を含めた全14曲・48分。デジパック仕様、歌詞ブックレット（12頁）付き。

◎ Tranca（Circus 2018）Ava Rocha

Ava Rochaの3rdアルバムは全19曲・62分。Domenico Lancellotti（ドラムス）、Alberto Continentino（ベース）、弟のRafael Rocha（パーカッション）、Iara Renno、Tulipa Ruiz（ヴォーカル） など、総勢35名のミュージシャンが参加した大作となった。彼女の自作曲は共作を含めた11曲に、夫のNegro Leo（ギター、ヴォーカル）が５曲、カヴァ３曲というアルバム構成。2016年6月6日、64歳で亡くなった友人の彫刻家トゥンガ（Tunga）に捧げた〈Pangeia〉、エンディングで早送りになる変則リズムの〈Periferica〉、Tulipa Ruizとデュエットした〈Lilith〉、トライバルな打楽器とフェイス・ペイント（PV）に圧倒される〈Joana Dark〉、TulipaとNegro Leoがバック・ヴォーカルで参加した狂躁的な〈Anjo do Bem〉、Marcos Campelloのギター・ノイズに巻き込まれる〈Assumpcao〉 ‥‥土着的なリズムとAva Rochaの低音ハスキー・ヴォイスと実験的なサウンドが三つ編みドーナツのように絡み合う。３面見開きデジパック仕様、歌詞ブックレット（16頁）付き。

◎ Little Electric Chicken Heart（Risco 2019）Ana Frango Eletrico

ブラジル・リオ生まれの女性SSW、アナ・フランゴ・エレトリコ（Ana Frango Eletrico）の2ndアルバム。彼女のヴォーカルとギター、Antonio Neves（ドラムス、トロンボーン、トランペット、ピアノ、ローズ）、Guilherme Lirio（ドラムス、ドラム・マシン、ギター、ベース、鉄琴、ラップ・スティール、ヴォーカル）、Vovo Bebe（ベース、低音オルガン、ヴォーカル）に、Alberto Continentino（シンセ）、Marcelo Costa（ドラムス）、Tim Bernardes（コーラス、オルガン）など、多彩なゲストが参加している。厳かなピアノと男声コーラスに、可愛らしいヴォーカルが加わる〈Saudade〉。場末の酒場のように騒がしい〈Se No Cinema〉、狂乱のサンバ・ホッキ〈Tem Certeza?〉、甘ったるくて破廉恥なバラード〈Chocolate〉など‥‥全９曲・30分。デジパック仕様、６つ折りポスター付き。性別不明・年齢不詳の「アルバム・カヴァ」はインパクト大！‥‥ロシア系ブラジル人のアナフランゴは電気鶏の夢を見るか？

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• MUSIC MAGAZINE 5月号「リオ・デ・ジャネイロのいまがわかる19枚」に便乗！


• 紹介したアルバム７枚（ブラジル盤６、UK盤１）は全て自腹で購入しました＾＾;


• Ava Rochaは〈怪女ゴルジーニャ〉、Ana Frango EletricoとRubelは〈大洋レコード〉からの再録（一部加筆・改稿）です


• ディズニー映画「三人の騎士」（The Three Caballeros 1944）に魅入ってしまった

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