♭ 犬神家の一族(2021-09-04)ささやななえこの
『獄門島』(小学館 1978)は別コミで読んだ記憶があるけれど、つのだじろうが
『犬神家の一族』(講談社 2001)を描いていたとは寡聞にして知らなかった。時代設定を現代に置換したオカルト・ミステリ。原作は敗戦後の荒廃感が色濃いけれど、つのだじろうは「犬神伝説」を裏テーマにすることで、オカルト・ホラー色を強めている。「絶世の美女」と表現される野々宮珠世はホラー映画のヒロイン風、犬神佐兵衛翁の長女・犬神松子は佐清の母親というよりも老婆‥‥さいとうたかを風の劇画タッチなのに、三つ揃いの背広に丸眼鏡の金田一耕助が四頭身でコミカルに描かれているのは意図的なのでしょう。文庫版解説の皆川博子は余りの改変ぶりに閉口したのか、コミック版の内容には一切触れず、「妖美な世界が展開する横溝作品の魅力」 について語った後で、「読みやすい漫画で紹介され、新たな横溝ファンが増えることと思います」 と結んでいる。
♭ 僕・ぼく・私(2021-09-11)「私小説」は作家本人と思しき人物が主人公として描写される。
『一人称単数』(文藝春秋 2020)の語り手(僕・ぼく・私)も作者本人だと思われる。「ヤクルト・スワローズ詩集」 には「一九六八年、この年に村上春樹がサンケイ・アトムズのファンになった」という記述がある。現実に起きたような事実を一人称視点で描いた「小説」はエッセイと見分けがつき難い。一夜を共にした女性から自費出版した「歌集」が送られてくる 「石のまくらに」、公園で向かいのベンチに座っている老人に語りかけられる 「クリーム」、バードの架空アルバム評を大学の文芸誌に寄稿した 「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ」、ガールフレンドを迎えに行った彼女の家で兄と長話して芥川龍之介の「歯車」を朗読する 「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」、クラシック演奏会で出会った醜い女性F*とシューマンのピアノ曲で意気投合する 「謝肉祭(Carnaval)」 ‥‥全8篇中、群馬県M*温泉の鄙びた旅館で従業員の猿と会話を交わす 「品川猿の告白」だけはリアリスムの範疇から逸脱している。バーの女性客に絡まれる 「一人称単数」も相手は「私」を村上春樹と認識しているのだろう。
♭ 私はドレミ(2021-09-18)ドレミは長年の友人レリーさんの紹介で、リリー(石田ゆり子)さんから貰われて来たキジ白猫(5歳)。エリー(平野恵理子)と2人(母一人子一人)暮らしの日々を一人称ネコ視点で描いている。ドレミという名前はエリーの大好きなライ・クーダーが歌っていたウディ ー・ガスリーのフォーク・ソング〈Do Re Mi〉から採られたという。ネコの思考はヒトには理解不能なので擬人化して想像するしかないけれど、そこで著者の観察眼と自己批評性が試される。ネコの生態・行動から気持ちを推測・想像して、自らを冷静に批判するわけだ。エリーの膝の上で対面して食べるおやつは至福の時間。「CIAOちゅ~る」 を夢中で食べていると「ドレちゃん、お顔が怖いよ〜」と言われる。一心不乱に集中している時は動物の野生や人間の本性が表情に出るようだ。ドレミが熱心に毛繕いをしている時もエリーに、「ドレッティー、化け猫みたいな顔してるぞ〜」と呼ばれてしまう。「飼い主のつぶやき」 と 「日記」 を併録したイラスト・エッセイ
『わたしはドレミ』(亜紀書房 2021)。
♭ 夜廻りネコ 7(2021-09-25)深谷かほるの
『夜廻り猫 7』(講談社 2020)は全90話(541~630)を収録している。
「モアイ」(Wedコミック・サイト)で殆ど読めるが、単行本(ワイドKCモーニング)には見開き左頁に8コマ・マンガ、右頁に扉絵が掲載されている。つまり約半分(90頁分)は描き下ろしなのだ。ラブとケルベロス(犬)、らぴ(パピヨン犬)とラミー、宙さん、モネ、帽子猫、ゼン(1人集会猫)、カラーとメロディ姉妹、ニイ、雑巾野郎たち(モエル、サトル、ショゲル、ビビル、グレル)、元・重郎、モフモフ、痔猫、ミーコなどの新旧キャラ、主役の遠藤平蔵と重郎以外では全17話に登場する夜廻り見習いワカルの活躍が目立つ。「地球防衛家のヒトビト」(朝日新聞夕刊連載)ほどではないけれど、「夜廻り猫界隈」 にも新型コロナ・ウイルスの感染拡大(599、600、603、612話)や経済的な困窮(559、601、606、608話)が暗い影を落としている。あとがきまんが 「さっちゃんの薬」(5頁)では佐智子とワカルが向かいの居酒屋の出火に巻き込まれる。カラー口絵(3頁)、「夜廻り新聞」 付き。
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犬神家の一族
- 著者:つのだじろう / 横溝 正史(原作)
- 出版社:講談社
- 発売日:2001/09/01
- メディア:文庫(講談社漫画文庫)
- 目次:野々宮珠世 / 犬神の血筋 / 仮面の中 / 美女への遺言 / 奉納手形 / 菊 / 芥子 / 犬神族伝説 / 斧 / 犬神魔通里 / 佐清の自白 / 逆転の結末 / 解説・皆川 博子
獄門島 ささやななえ傑作集 1
- 著者:ささや ななえ / 横溝 正史(原作)
- 出版社:小学館
- 発売日:1978/09/20
- メディア:コミック(フラワーコミックス)
- 内容:ささやななえがコミカライズした漫画版(別冊少女コミック昭和52年7月号~10月号連載)。横溝正史と少女漫画、一見不釣り合いな感じですが、ホラー漫画にも秀作の多いささや氏の独特なタッチは、横溝正史の世界観と非常にマッチしていて違和感はありません。それに加えて、女流漫画家ならではの繊細な心理描写が巧みなのです(Muuseo)
一人称単数
- 著者:村上 春樹
- 出版社:文藝春秋
- 発売日:2020/07/18
- メディア:ハードカヴァ
- 目次:石のまくらに / クリーム / チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ / ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles /「ヤクルト・スワローズ詩集」/ 謝肉祭(Carnaval)/ 品川猿の告白 / 一人称単数
わたしはドレミ
- 著者:平野 恵理子
- 出版社:亜紀書房
- 発売日:2021/05/22
- メディア:単行本
- 目次:わたしはドレミと申します / 大寒の朝 / 日めくり / 朝のブラシ / 体重測定 / ごはん / おやつ / 怖い顔 / 期待には応えない / 回覧板の手さげ / わたしの寝場所 / 眠り猫 / わたしのトイレ / お引っ越し / お客さん / 雪 / エレガントな足取りで / プレイ / たかいたかい / 京壁のキズ / キーボード/ テンブクロ/ 脱走/ プリンセス天功事件/ ムンちゃん/ お医者さ...
夜廻り猫 7
- 著者:深谷 かほる
- 出版社:講談社
- 発売日:2020/12/23
- メディア:コミック(ワイドKC)
- 目次:ぼろぼろ / 通じませんように / うれしいうれしい / 隠れる / お迎え / おねえちゃん / 居場所 / さんまのしっぽ / 手をつなぐ / 嵐の人 / 忘れた顔 / ネギ丼 / 半分こ / 取り返し / 嫌われ者 / 優先席 / ドラマの最終回 /「にこっ」/ 光京子さんとカーコの話 1〜3 / こたつ屋さん / ざぶとん / 一瞬の暗転 / フルコース / おしゃれ / 泣きたい日 / 割れた玉子 / ...