せつぶんは / まめをたべたり / まいたり / としのかずだけ / ささみをゆでたり / 食べたりする日です。/ おかーさんは / 豆もなくて / ささみも買いわすれました。/ しかたがないので / ぼくのあしのうらにある / 豆をみればいいと思いました(2020/2/4/ ハ)
石田 ゆり子 「ハニオ日記 III 2019-2021」
⃞ 2〜3キロ増え、石田ゆり子。にごり湯足し、家風呂、銀座に
猫5匹と犬1頭と人1人が共に暮らす「ゆりごろう王国」もコロナ禍による引き籠もり生活を余儀なくされた。ハニオ(茶トラ)、たび(白ソックス)、はちみつ兄弟(立ち耳スコテ ィッシュ・フォールド)、ばびぶー(マンチカン)は相変わらず室内で元気に遊び回っているけれど、ゴールデンレトリバー(雪)との散歩も憚れる。おかーさん(石田ゆり子)もコロナ籠もりで運動不足になってしまった。今朝、体重計に乗ったら、何と2〜3kgも増加していたのだ。脱衣して姿見に全身を映す。見た目は全然変わらない。これがハニ坊だったら一大事だが、殊更気にするようなことではない。2〜3kgは微増ではないか? ‥‥お気に入りの温泉入浴剤を入れた湯舟に浸かって心身共にリラックスする。ピンク色の濁り湯が躰に沁み渡って温まった。秋になってコロナ感染者数も激減して、日常生活も徐々に元に戻りつつある。午後は雪を連れて、久しぶりに銀ぶらでもしようかなと思っている。
⃞ 裏話「ハニオ日記」‥‥不吉に鬼は笑う
さくねんのせつぶんの日は豆まきもなく、おかーさんは、ささみも買いわすれました。しかたがないので、ぼくはあしのうらにある豆(肉球)を見ていました。きょうのあさ、おかーさんはかべにかかっているオニのかめん(鬼面)にむかって「あくりょうたいさん、コロナぼくめつ!」などと叫んで、ひっしに豆をまいていました。豆をぶつけられても、オニはふきつに笑っています。おかーさんの顔のほうが、つののはえたオニに似ているのではないかと思いました。じょーげんのオニとたたかう「きめつ」のねずこ(禰豆子)みたいなぎょうそうがマジこわかった。おしっこをちびりそうになって、ぼくはトイレに駆けこみました。ゆかに落ちていた豆をひとつぶ食べてみましたが、ちょーかたくてクソまずかったです。おかーさんは、ささみとちゅーるをことしも買いわすれたのでしょうか?‥‥いかりしんとうのぼくは、はちみつ山のオニライオンになりました。「ハニオ裏日記 2021/2/2/ ハ」 から。
⃞ エコ・サンダル、師走。伊豆走る、段差越え
インドソール(Indosole)はカイル・パーソンズ(Kyle Parsons)が2009年に創設したバリ島発のシューズブランド。廃タイヤをリサイクルして、「高性能で耐久性の高い靴底の製造に特化している」。 2004年のインドネシア旅行で体験したことがブランド設立の契機になったという。《履いていたサンダルのストラップが切れ、代用品として購入したサンダルが廃タイヤを原料にしたものでした。履き心地もスタイルも良いとは言えなかったのですが、そのコンセプトに共鳴したのです》と語る。世界で年間15億個のタイヤが破棄されている。タイヤは自然分解されずに燃焼時に化学物質が発生する。その多くが中間処理場で放置されて不法投棄されている。廃タイヤを輸入する発展途上国の焼却による環境汚染が問題化している‥‥これまでに225トンを超える廃タイヤをリサイクルして来たインドソールが2021年冬にジョギング用のスポーツ・サンダルを新発表した。早速エコ・サンダルで、師走の伊豆を走ってみた。素足にフィットして、舗道の段差や階段も軽快に飛び越える履き心地である。
⃞「新型MacBook Pro壊すわ!」転ぶ、屈伏。妻だ、監視
テレワークが終わった夜、ダイニング・キッチンでビールを飲んでいると、書斎の方か絹を切り裂くような悲鳴と地震のような地響きが聞こえた。何事かと慌てて隣室のドアを開けると、妻が俯せに倒れていた。飲み終わったコーヒーカップを片付けに来たらしい妻がノートブック(MacBook Pro)の充電ケーブルに足を引っかけて転んでいたのだ。妻はデスクの上あるMBPが転倒して壊れちゃうと思って、咄嗟に叫んだのだろう。ところがMBPは無事だった。先月購入したばかりの新型MBP14インチはマグセーフ(MagSafe 3)が6年振りに復活していた。MBPと磁力で接合されているだけなので、万一引っかけても落下したり、ジャックやポートを損傷しないようになっているのだ。妻の心配は杞憂だった。充電ケーブルは本体から見事に外れていた。マグセーフの安全性は実証されたが、今後は愚妻や愛猫が不用意に書斎に入って来ないように監視すべきかもしれません。
⃞ 冷え俎板、鱒、真鯛、生海老
新型コロナ・ウイルス感染防止対策による 「緊急事態宣言」‥‥飲食店での飲酒禁止や会食者の人数制限、時間短縮営業など、長期に渡るコロナ禍の自粛営業で外食産業は窮地に陥っていた。銀座の某寿司屋も「緊急事態宣言」 発令中は一時的に休業を余儀なくされた。店主の板前M**は自粛期間中に「出張すし職人」に転じることにした。その朝に獲れた新鮮な海産物、厳選した国産米を土鍋で炊いた鮨飯、マイ俎板とマイ包丁を出前する家に持参する。本日の「お品書き」は富山県の郷土料理で、駅弁でも有名な鱒寿司、真鯛と生海老の握り鮨など全10品。注文に応じて、前菜や散らし寿司などのオプションもある。マイ包丁とマイ俎板を使う理由は衛生面だけではない。新鮮な生ものを調理する包丁と俎板は清潔で、ギンギンに冷えていることが肝腎なのである。
⃞ 水飲み場、芝、白百合揺らし、榛の隅
最近ネコの姿を見かけることが少なくなったが、耳の折れたスコティッシュ・フォールドと出遇う確率は更に低い。もし貴方が「ネコ歩き」していてスコちゃんを見つけたら、僥倖と思って良いかもしれない。ネコ専素人カメラマンS**も今までに3匹しか接近遭遇したことがない。三毛と黒灰縞の2匹だけである。3匹共に首輪をしているので飼いネコだと想われる。スコちゃんを放し飼いしていることだけでも珍しいと思う。公園で何度か出会った黒灰タビー柄のスコちゃんは初対面の時から人懐っこく、天然ではないかと心配するほど無防備だった。自ら擦り寄って来て、足許に頭をスリスリする。何を思ったのか、先導して時折振り返りながら水飲み場に案内した。どうやら喉が渇いたので蛇口の栓を捻れという意思表示らしい。ネコの躰を抱き上げて水飲み台に乗せると、噴水状に溢れる水を舌を使って器用に飲む。水飲み場から跳び降りると、満足げにミャーと鳴いて芝生を横切る。白百合の咲き乱れる植込みを通って、榛の陰に身を隠した。
⃞ 色仕掛けの喪主、下の毛が白い
従兄の通夜に出かけた。閑静な住宅地の一軒家。呼鈴を鳴らしても応答がないので、鍵の架かっていない格子戸を開けて、玄関から勝手知った居間へ入る。意外なことに弔問客は誰1人も来ておらず、喪服姿の伯母が独りで正座していた。棺に安置された従兄と対面して、祭壇に飾られた遺影の前で焼香した。「くも膜下出血による急死だったので、まだ親族には連絡していない。一番仲の良かった、あなただけに夫の訃報を知らせたのよ」 と、伯母は淡々と語る。漆黒の黒髪に喪服、白い足袋‥‥最愛の夫に先立たれた寡婦の躰から生気は感じられないが、死と隣り合わせの妖しいエロスが漂う。消沈した青白い表情はカーミラのように美しい。未亡人に誘われるように寝室へ赴く。着物の帯を解く音が艶かしく耳を擽る。伯母の肢体は白磁のように滑らかで、内面から青白く発光しているようだった。驚いたことに恥毛も真っ白だった。もしかしたら彼女は白髪を黒く染めているのかもしれない。
⃞ 罅、斑‥‥人形揶揄う、預金睨む日々
古びた骨董屋で少女と出遭った。仄暗い通路の奥で人待ちをしているように、所在なげに佇んでいる少女‥‥等身大の球体関節人形だった。黒いヘア・ウィッグ、黒いローファーに白ソックス。左頬に小さな罅があり、素肌には色斑が見られるけれど、黒い瞳には妖しい生気が宿っている。半開きの唇は今にも小生意気な言葉を発しそうである。ハンス・ベルメールの球体関節人形を想わせるが、場末の骨董店に本物があるはずはない。恐らくベルメールの死後に制作された人形だろう。模造品にしては完成度が高く、胸部のパノラマも精巧に再現されている。素見しのつもりで店内に入ったものの、少女と出逢った瞬間に恋に落ちた。一目惚れだった。値札が付いていないので、売り物ではないのかもしれない。陰気そうな店主に尋ねると、三桁の金額を提示された。帰宅してからも、少女と一緒に暮らしたいという願望に悩まされた。購入しようかどうか?‥‥預金通帳と睨めっこする日々が続く。
⃞ 武漢ログ、見落とすリスク。隠すリスト、オミクロン株
新型コロナの変異ウイルスは 「英国型」 「インド型」 など、最初に発見された国名で呼ばれていたが、世界保健機関(WHO)は 「汚名を着せることや差別につながることを避け、コミュニケーションしやすくするため」、変異株の新名称にギリシャ文字を使うことを推奨した。アルファ(英国)、ベータ(南アフリカ)、ガンマ(ブラジル)、デルタ(インド)、イプシロン(米国)‥‥ミュー(コロンビア)など、アルファベット24文字の半数が既に埋まっている。11月末、南アで発見された新たな変異株オミクロンに関する衝撃的なニュースがダークウェブで密かに流布されている。中国・武漢で発症した新型コロナ・ウイルスはコウモリから人間に感染したとか、人為的に造り出されたものだとか噂されているが、武漢ウイルス研究所のサイトに潜入したハッカーが最高機密レヴェルの文書(ログ)を見つけたという。秘匿されている新型ウイルスの種類(リスト)の中に「オミクロン」の文字があったのだ。
⃞ 良い牡蠣、いかす猿飛エツ子。秘コツ、海老穫る流石、生き甲斐よ
三つ葉小学校4年B組に転入して来た少女は恥ずかしがり屋さん。担任の白雪先生が生徒の前で紹介しても姿を現わさない(先生の背中に乗って隠れている)。少女は「エヘ」と照れて、「オ‥‥おらあおらあは、その猿飛エツ子でがス。みなさんドンゾよろスくナ」 と自己紹介する。東北訛りのエッちゃんは悪ガキ・グループから「エテ公」と蔑まれてイジメられるが、「猛スピードで走り、怪力を持ち、動物と会話できるなど不思議な能力を持つ、自称猿飛佐助33代目の子孫」 は次々に起こる騒動を解決してクラスの人気者となる。ある日、エッち ゃんは級友のミコちゃん(広岡三枝子)やモモちゃんたちと連れ立って磯釣りに出かけた。釣り糸を海へ投げ入れても全然当たりの来ない仲間たちを尻目に、着衣のまま勢い良く海中に飛び込んだエッちゃんは素潜りで牡蠣や海老を大量に穫った。牡蠣、海老などの海産物は大好物。海女ちゃんも特殊能力の1つ。「おかしなあの子」 はエスパー(ESP)少女だった。
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- 回文と本文はフィクションです。一部で実名も登場しますが、該当者を故意に誹謗・中傷するものではありません。純粋な「言葉遊び」として愉しんで下さい^^;
- 石田ゆり子の『ハニオ日記 I II III 2016-2021』(扶桑社 2021)を参照しました
- エコ・サンダル回文は 「サンダルの原料は廃タイヤ。リサイクル課題に向き合う「インドソール」の歩み。」(VOGUE 2021・8・27)を参照・引用しました
- オミクロン回文は「新型コロナ、変異も呼び名も「想定外」ギリシャ文字使い切ったら?」(朝日新聞 2021・9・21)を参照・引用しました
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- 著者:石田 ゆり子
- 出版社:扶桑社
- 発売日: 2021/05/31
- メディア:単行本(ソフトカヴァ)
- 内容:女優石田ゆり子が5年間に渡って点描し続けた日々の記録。彼女と動物たちの「なんでもない」毎日。「日々は続いていく。悲しみも喜びも飲み込んで。そして今日も朝日は昇るのです」この本で著者が伝えたかったことは、この言葉に尽きる‥‥
インドソール サンダル(ESSNTLS Vegan Flip Flops)
- メーカー:インドソール(Indosole)
- サイズ:26.5mm~27.0cm
- 靴幅:ミディアム(Medium)
- メイン素材:ナイロン
- メディア:ウェア&シューズ
さるとびエッちゃん 1 ── 石ノ森章太郎萬画大全集 3-32
- 著者:石森 章太郎
- 出版社:角川書店
- 発売日:2006/08/31
- メディア:コミック
- 目次:転校してきた子の巻 / ああ友情の巻 / 名犬ゴンの巻 / 催眠術の巻 / こんにちは赤ちゃんの巻 / クズイおはらいの巻 / いじめっ子の巻 / おみまいにお人形をの巻 / 春がきた春...
エスパーエッちゃん ── 石ノ森章太郎萬画大全集 11-34
- 著者:石森 章太郎
- 出版社:角川書店
- 発売日:2008/08/29
- メディア:コミック
- 目次:エスパーエッちゃん / おかしなあの子 / さるとびエッちゃん たのしい幼稚園版 / ふしぎはっけん 子どもたんけんたい / うしろの正面だあれ / イラストコレクション